先日、大雪山の情報交換会に参加しました。11月にあった東大雪地域での会議と同様にweb参加でした。大雪山関係者の今季の情報を伝え、課題や来季への取り組みを考える会議です。

A2F93460-08BF-45BB-B186-CFDDB88D040D

今期の山守隊活動や業務での取り組み、来季へ向けての提案、今季の懸念事項などを伝えてきました。報告時間は一人2分と言われ、どうしようもないほど短い。
山守隊の取り組みは
コロナ禍の中でも思った以上の行動ができました(現在報告冊子を作っていますので、山守隊員の方などにお送りする予定です)。ヒグマセンターで行なった募金やボランティアの協力による整備の進捗などは、今後の協力金体制へ向けて大雪山としてとても意義あるものになっていると感じています。

来期に向けての提案としては、大雪山各所にある標識の補修アイデアなどを伝えました。

そして、懸念事項はこれからの大雪山を管理していく上でとても重要なことだと思い、批判を覚悟で発言してきました。


今期は松仙園が開放されたり、環境省からの補正予算として多くの道の刈り払いが行われました。今まで以上に通行できる場所が増えたことになります。これは登山者としては望ましいことだと感じます。自分も歩いて見たい場所はあります。

しかし、登山道整備にたずさわる者としては非常に危惧すべき状況だとも感じています。

5CD649CB-4F9D-4219-A92B-7394D2082A84


自然環境では人が歩くと植物がなくなっていきます。特に大雪山などの高山帯やそれに近い場所は植物の生育が遅く、下界よりもダメージが大きくなります。植物が育つ土壌環境は、植物が根を張り土を噛み、どちらも存在することで成り立っています。その植物がなくなると土壌は流れやすくなります。登山道侵食としては植物がなくなると、まずぬかるみが増え、雨水や融雪水が流れるようになります。その後泥濘が流され、岩盤が露出していきます。そうなるとその土壌環境は復元できず、地形や地質、水分量の変化により植生も変わっていきます。


松仙園は今期1000名ほどの入山者があったそうです。たった千人(一方通行なので往復ルートとして見ると500人)歩いただけで泥濘は凄まじい状況になりました。近年ルートが変更された二ペソツでも泥濘区間が多くなり、対応が必要との報告がありました。トムラウシのカムイ天上はルートが笹藪を通る新道に変更されてから十数年で取り返しのつかないほど土壌がなくなってしまいました。トムラウシの登山者数は毎年3000人程度です。二ペソツはもっと少ないですね。

昔と違い現在はSNSの時代です。インフルエンサーが面白いルートだよ、と伝えた途端に人が多くなる可能性もあります。

笹を刈り、人が通るようになると道になります。ですが道はしっかりと管理しなければ自然にとって大きなダメージになってしまいます。

CBAA149F-4532-43B1-9BFC-48F5E8CD9403


本来は管理者である行政がしっかりとやるべきだ!とも思うのですが、現在の法律である自然公園法に則っても今以上の管理を求めるのは難しい状況です(法律や運用を変えなければこの管理状況は打破できません)。現状の予算が5倍になっても現行システムのままでは保全と利用のバランスは全く取れません。今後予算は削られることはあっても増えることは考えにくいのが現状です。


国立公園法から自然公園法へと移行してから現在まで60年以上経ち、施行された時代と現代の利用や荒廃状況とはかけ離れたものになっています。自分が知る25年間の大雪山をみても崩れが激しくなった場所は多々あれど、復元している場所は廃道以外ほぼありません。

登山道整備や環境復元を行なっている者としては、管理ができない状況でコースにこれ以上の利用者を入れ込むことは危険だと考えます。管理とは笹刈りやマーキングだけではありません。人の利用を見て侵食が起きないようにコントロールする必要もあります。

18D59950-8F25-4BED-85AE-49BCA9B2A4B9

今期様々な場所が刈り払いされましたが、管理者がいないコースもあります(行政的には土地所有者と事業執行者がいて管理者とは事業執行者のこと)。もしそのコースで侵食が起き始め、整備が必要になった時にも、管理者がいない場所では施工物を作ることができないのです。木道を作りたくても作れない。侵食を止めたくても施工できない。

笹が生い茂った場所の刈り払いは非常に苦労します。一人が1日で作業できる距離は頑張っても数百mです。ですが、崩れた道を直す時はどんなに頑張っても一人で数mしか進みません。コースの開放は簡単でも、荒廃を止めることはとても難しいのです。

コースの開放は登山をしたい人にとってはありがたいことですが、現状のシステムを知り、できることの制限を知ると、現状のシステムの中で利用できる道が増えるということは、整備が追いつかないという恐怖を感じてしまうほどです。

211EF623-31F0-4560-BD96-CD8A6B0272FB


とはいえ、この元凶は管理システムが穴だらけであるということ。そのことに気がついている人は同様に懸念を共有してくれました。

今やるべきは新たなルートを作ることではなく、今使われている道をしっかりと管理することだと感じています。松仙園のように北海道で2例目の利用調整地区という実績を作るよりも、日々崩れている道を崩れないように整備することの方が大切だと思います。現在の管理状況では登山者を入れないコース(廃道)を増やす方が自然にとっては重要な選択とも言えます。


しかし、自分は「人が来るほどに美しくなる山」という管理があると思っています。ヒグマ情報センターで行なっている行動がそれであり、登山者が来るほどに募金が増え、木道が増え、整備が進み、安心して利用できるコースになること。また、人が増えすぎないように調整していくこと。そのためには登山道の管理や侵食、生態系、技術を理解した現場人がいなければなりません。また、事業執行者(管理者)がいて様々な責任問題を解決できる状況でなければなりません。ヒグマセンターで管理する高原温泉沼巡りコースは少しづつそうなってきていますが、利用と保全のバランスがとれているコースはとても少ないのが現状です。

8647187B-EF30-45EA-9991-1EB642FABE4C


今、大雪山では登山道維持管理部会なるものができ、管理に向けて意見出しが始まりました。現状のように各地でそれぞれがバラバラに作業をしていくのではなく、大雪山で集められる資金、管理や実行できる人、廃道や開放の是非、などなどを調整した上で「大雪山の管理計画」が進められていく可能性(希望)があります。これから始まっていくであろう協力金体制も計画を進める上での大きなポイントでもあります。そしてそうなった時には今以上にしっかりとした利用戦略が作ることもでき、観光利用や情報発信としても価値ある管理になってくると思います。

あるコースを5年間廃道として扱い、その間にその場所の整備を進め、開放時には利用宣伝をして管理資金が集まるようにし、その管理資金で次の場所を直していく・・。なんてことが計画を立てて実行できるようになるかもしれません。

大きな話としては自然公園法の現状に合わせた一部改正も議論されています。

B36BDF21-80B8-4098-A746-C97A5D2A5008


今回自分が感じた懸念は、登山者にとってみれば利用の制限にもなり、批判は覚悟しています。刈り払いの労力が大変なものであり、登山者のためという心情で行われたことも知っています。ただし、崩れていく植物や、なくなっていく土壌を必死で止めている者としては、どうしても伝えなければならないことだと思いました。


300km以上ある大雪山は、現状のシステムでは利用と保全のバランスをとることは不可能です。新たなルートが出来たら新たな侵食も起きてくると考えられます。それに対応できる管理環境ではありません。

この先は自然公園法の改正や管理システムの刷新が必須になっています。そのためには山岳関係者だけでなく、地域の方々や利用者、登山者の意見がしっかりと見え、それが全体で共有できるようにしていかなければなりません。また、個別の地域だけでなく日本全域の管理団体や関係者が同様の意識を持ち、観光利用と保全対策を考え行動できるようにしていくべきと思っています。


自分が様々な場所で聞いた登山者や地域の方々の声は、できるだけ公の場で公表するようにしています。皆様のご意見を聞かせていただければ幸いです。

一般社団法人 大雪山・山守隊 
  合同会社 北海道山岳整備 代表 岡崎哲三


情報交換会の議事録は今後環境省サイトから見ることができます。

今後はウェブ会議そのものをライブ配信や Youtube配信することも、主催である環境省に提案しました。

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット